今月の1枚

バックナンバー 2003年 4月号


このページでは、鈴木清一の作品を毎月一点づつ取り上げ、作品にまつわる話題などとともにご紹介していきたいと思います。

バックナンバー

2003年 2002年 2001年

3月:『水仙』
2月:『早春の六甲』
1月:『小菊』

12月:『根室原野の鶴』
11月: 『筑波山』
10月: 『篠原本町の庭』
  
9月: 『八千代像』  
8月:『九歳の八千代』  
7月:『会下山風景』
6月:『舞子の松』
5月:『赤い本』

4月:『菊池辰重氏像』
3月:『代々木風景』
2月:『春のうた』
1月:『雲と牛』

12月:『天王山農場』
11月:『初秋』

10月:『月見山風景』
9月:『孔雀』

2003年4月号の「今月の一枚」は『山ざくら』(1978年)を取り上げることにします。


鈴木清一作 『山ざくら』(1978年)
油彩・カンヴァス、45.5×37.9cm
個人蔵(神戸市北区)

春爛漫の山桜を描いたこの油彩画は、清一が初孫の高校進学を祝って描いたもので、うきうきするような希望に満ちた楽しい雰囲気に溢れています。死の前年にあたる1978年4月に完成した最晩年の作品ですが、彼の筆遣いはますます力強さを増してきているように思われます。

清一の創作意欲をかき立てたこの桜の老木は、神戸市灘区篠原本町の自宅があった場所からさほど遠くない小さな神社の一角に今も残っていますが、寄る歳には勝てずにすっかり弱ってしまっているのは残念です。枝越しに見えるのは清一が晩年に好んで描いた六甲の山並みです。

桜が日本の春を代表する花であることは確かですが、清一は必ずしも桜を無条件に好んでいたわけではなく、桜の仲間の中では山桜だけが好きでした。新緑前の赤味を帯びた若葉と淡いピンク色の花との取り合わせに魅力を感じていたのです。葉に先行して花が枝に密集して咲くソメイヨシノには風情がないと語っていました。そう言えば、戦前から戦後にかけての20余年間を過した須磨区月見山町の自宅には大きな山桜がありましたし、晩年の16年間を過した篠原本町の自宅にも古い山桜がありました。

彼は、桜の名所で毎年繰り広げられる花見客の酒宴を、あの馬鹿騒ぎは花を愛でているのではないと言って軽蔑していました。酒も花も静かに楽しむものだというのが彼の持論でした。春の暖かい陽光を浴びた満開の桜が描かれたこの『山ざくら』の画面から受ける印象は静寂そのもので、喧騒などはまったく感じられません。




▲鈴木清一作『山ざくら』(1967年)
水彩・色紙、27.0×24.0cm
個人蔵(神戸市須磨区)

 

清一は別の孫にも山桜の色紙を贈っています。こちらの方は誕生日のお祝いに描いたものです。
進学のお祝いであれ誕生日のお祝いであれ、清一にとっては、春先の贈り物の絵には山桜がもっとも相応しいモチーフだったのでしょう。


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