今月の1枚

バックナンバー 2003年 8月号


このページでは、鈴木清一の作品を毎月一点づつ取り上げ、作品にまつわる話題などとともにご紹介していきたいと思います。

バックナンバー

2003年 2002年 2001年

7月:『婦人像』
6月:『水戸弘道館』 
5月:『布引の新緑』
4月:『山ざくら』
3月:『水仙』

2月:『早春の六甲』
1月:『小菊』

12月:『根室原野の鶴』
11月: 『筑波山』 
10月: 『篠原本町の庭』   
9月: 『八千代像』  
8月:『九歳の八千代』  
7月:『会下山風景』
6月:『舞子の松』
5月:『赤い本』

4月:『菊池辰重氏像』
3月:『代々木風景』
2月:『春のうた』
1月:『雲と牛』
12月:『天王山農場』
11月:『初秋』

10月:『月見山風景』
9月:『孔雀』

「今月の一枚」の2003年8月号では、
清一が1972年に描いた『石廊岬』をご紹介します。



▲鈴木清一作『石廊岬』
(1972年)
油彩・色紙、27.2×24.2cm
個人蔵(神戸市中央区)


 清一が親しい知人に贈ったこの作品は色紙に油絵具で描かれており、色紙の裏には「石廊岬、昭和47年夏、鈴木清一作」と墨書されています。石廊岬(石廊崎)は静岡県伊豆半島の最南端から太平洋に向かって大きく突き出した断崖絶壁が続く景勝地です。岬の突端に立つ白亜の灯台と測候所の建物、岸壁に打ち寄せる白波と海から突き出た奇岩など、絵が好きな人ならすぐにも描きたくなる絶好のモチーフです。彼はこの風景が気に入っていたらしく、ほぼ同じ時期に同じモチーフの作品を別の知人にも贈っています。色紙というごく小さな画面に描かれた作品ですが、清一独特の非常に力強い筆遣いにご注目下さい。
 
 富士・箱根から伊豆半島にかけての風景をスケッチした清一の小型スケッチブックが1册残っています。本栖湖、河口湖、熱海、修善寺などのスケッチに混じって、明らかにこの油彩画の下絵になったと思われる石廊崎のスケッチもあります。スケッチブックのどのページにも日付が入っていないので、清一がいつ伊豆・箱根を旅行したのは明らかではありませんが、旅先から自宅へ戻ってすぐにこの作品を描いたのだとすれば、彼が旅行したのは1972年だったということになります。





▲鈴木清一作『石廊崎』
(1965年以前)
鉛筆/水彩・紙、25.0×31.0cm
個人蔵(神戸市須磨区)


 ところが、この推察は正しくなかったことが最近になって分かりました。

  清一が1967年3月に親友に送った絵手紙の中から、石廊崎を描いたはがきが発見されたのです。このはがきには「先年伊豆廻りをした折のスケッチからかいてみた。病床の兄が旅の想出などで自らを慰められるよすがにと、この雄大な景色をかいてみた。」という短い文章が書き添えてあります。



▲鈴木清一作『伊豆石廊岬』(1967年3月19日)
鉛筆/水彩・はがき、14.8×10.0cm
個人蔵(京都府長岡京市)


 昨年のことを「先年」とは言わないでしょうから、このはがきの文章を読む限り、清一が伊豆・箱根地方を旅したのは1965年、あるいはそれ以前ということになりそうです。しかし、7年以上も前の旅のスケッチをもとに油彩画を描くというのは、少し考えにくいことではないでしょうか。現在までの調査によると、このスケッチブックに入っている風景が油彩画になっているのは、この『石廊岬』の色紙のほかに『本栖湖』の色紙が1枚発見されているだけですが、これには残念ながら制作年が記されていません。このことは、今後、1960年代の作品が新たに見つかる可能性があることを物語っているのかも知れません。


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