2005年 4月号


このページでは、鈴木清一の作品を毎月一点づつ取り上げ、
作品にまつわる話題などととしていきたいと思います。

※今月までのバックナンバーは、ページの最下段をご覧下さい。


今月は、1960年代の神戸の街を描いた『神戸山手風景』(1967年頃)をご紹介します。

図1 鈴木清一作『神戸山手風景』(1967年頃)
コンテ・紙、50.4x35.6cm、個人蔵(神戸市須磨区)

 

 茶色いコンテで描かれたこの作品(図1)は、いつ頃どこで描かれたのかが最近になるまで分かりませんでした。
 画面には、起伏の多い山の麓の辺りから手前の塀のような構造物のすぐ近くまで、住宅やビルがびっしりと並んだ街の風景が描かれています。山の形からどうやら神戸の風景のように思われます。

 手前左側の日本家屋の屋根の上には、最近ではもう見ることがすっかり少なくなった物干し台のようなものが描かれているかと思うと、住宅の屋根越しにはテレビアンテナらしきものも描かれています。もしもこれがアンテナだとしたら、わが国にテレビが急速に普及しはじめたのは1950年代末のことですから、これは1960年代あるいはそれ以降の作品と考えなければなりません。

 気になることがもう一つあります。それは画面右下の「Seiiti-S.」というローマ字のサインです。清一がローマ字でサインしているのは非常に珍しいからです。試みに彼の帝展出品作品について当たってみると、1930(昭和5)年の第11回帝展入選作品『孔雀』(兵庫県立美術館所蔵、
「今月の一枚」2001年9月号参照)より以前の作品には「Suzuki-S.」あるいは「Seiiti-S.」のサインが使われていますが、1931年以降の作品にはすべて「清一」のサインが使われています。そうなると、この作品は昭和初期のものと考えなければならず、制作年はいよいよ分からなくなるのです。

 この謎は最近になって意外にも簡単に解けることとなりました。「今月の一枚」で何度もご紹介している彼の絵手紙の中に、このスケッチとまったく同じ構図の絵が発見されたからです(図2)。彼の親友に宛てたこの絵手紙には「飛田氏の経営している啓明女学院の2階の窓から眺めた山手の風景。神戸らしい特色があるながめです。山すそは北野町のあたりです...」と記されており、郵便局の消印は1967年2月9日となっていました。

 
啓明女学院は1959年4月から1978年3月までの20年間、清一が美術教師を務めた私立の女学校で、清一と同郷の飛田昌久が院長をしていました(「今月の一枚」2002年12月号参照)。現在、啓明女学院の校舎は須磨区横尾にありますが、当時は神戸の三宮(現在、神戸ワシントンホテルプラザとモントレ神戸が建っている土地)にあり、清一はここから北の方角を見た風景を図1のようにスケッチした後、図2の絵手紙を書いたものと考えられます。

 しかし、清一がなぜこのスケッチにローマ字のサインを入れたのかは分かりません。ことによると、この絵を描きながら60年前に神戸へやって来た当時のことを懐かしんでいたのかも知れません。


 
図2. 鈴木清一作
『啓明女学院の2階の窓から
眺めた山手の風景』
(1967年)
水彩・葉書、14.8x10.0cm
個人蔵(長岡京市)


「飛田氏の経営している
啓明女学院の2階の
窓から眺めた山手の風景
神戸らしい特色がある
ながめです. 山すそは
北野町のあたりです
御大事にどうぞ」


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