今年4月、清一の画集と伝記とをまとめた本を出版することになりました。
鈴木耕三著『孤高の画家・鈴木清一の作品と生涯』という 本で、
カラー口絵64ページ、モノクロ写真・図版190点を含む約250ページ、B5版のハードカバーです。
「今月の一枚」と併せてご参照下さるようご案内申し上げます。
今月は梅の季節にちなんで、油彩画『室津の梅』(1968年) をご紹介いたします。
清一は郷里水戸市の木にも指定されている梅が大好きでした。
※今月までのバックナンバーは、ページの最下段をご覧下さい。
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▲図1. 鈴木清一作『室津の梅』(1968年) 油彩・色紙、27.0x24.0cm、個人蔵(神戸市中央区) |
海を見下ろす高台に早春の陽光を浴びて梅の花が静かに咲いています。兵庫県西部の梅の名所、たつの市(旧揖保郡)御津町室津の風景です。室津は播磨灘に面した古い港町で、海岸線は瀬戸内海国立公園の一部となっており、沖合には家島、西島、坊勢島、男鹿島などの家島諸島を望む景勝地です。
1968年ごろのことだったように思いますが、清一は10人ほどの木曜会会員とともに、室津へスケッチに出かけました。わたしも父のお供をして、このとき初めて木曜会の郊外スケッチに参加し、油絵を1枚描いたのでした。お天気はとてもよかったのですが、気温はかなり低く、筆を持つ手に息を吹きかけながら悪戦苦闘したことを覚えています。清一がこの日に描いた水彩スケッチが2枚残っていました(図2および図3)。
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| ▲図2. 鈴木清一作『室津のスケッチ(1)』 (1968年ごろ)、水彩・紙 33.1x24.4cm、個人蔵(厚木市) |
▲図3. 鈴木清一作『室津のスケッチ(2)』(1968年ごろ) 水彩・紙、24.4x33.1cm、個人蔵(厚木市) |
この2枚のスケッチのうち『室津のスケッチ(1)』(図2)が『室津の梅』(図1)の原画であることは間違いないでしょう。清一はこの水彩スケッチを見ながら、アトリエで油彩画『室津の梅』を仕上げたものと思われます。縦長のスケッチを正方形に近い色紙に描き直したので、画面の上下が少し切り詰められてはいますが、原画に忠実に描かれていることに変わりありません。
彼はこのモチーフがかなり気に入っていたらしく、『室津の梅』によく似た作品4枚がこれまでに見つかっています。いずれも色紙に描いた油彩画で、1970年から1977年にかけての作品です。その中の1枚が1977年の作品『室津早春』(図4)です。これを最初の『室津の梅』と見比べると、両者の間に大きな違いがあることに気付きます。
『室津の梅』では、遠景の山と海が薄い色に塗られていることや、手前の枯れ草と不思議な形をした枯れ木とが画面に「春なお遠し」という雰囲気を漂わしています。これに対して『室津早春』では、山と海が鮮やかな色に変わり、梅の木の根元には水仙の花を、さらに右手にも梅の花を配するなど、非常に穏やかで暖かい感じの作品に変わっています。彼は1枚のスケッチを基に試行錯誤を繰り返し、最後に行き着いたのがこの『室津早春』だったのではないでしょうか。
なお、今までのところ、なぜか『室津のスケッチ2』(図3)に基づく油彩画は1枚も発見されていません。
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| ▲図4. 鈴木清一作『室津早春』(1977年) 油彩・色紙、27.0x24.0cm、個人蔵(神戸市中央区) |