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2007年 4月号


 

鈴木清一作『初秋の丘』(1921年)、油彩・カンヴァス
112.1x145.5cm、個人蔵(東京都)




 今月ご紹介する作品は、清一が東京美術学校の研究科に在籍中の1921年に描いた帝展初入選作品『初秋の丘』(写真1) です。この作品は翌1922年にパリで開催された日仏交換美術展にも出品されましたが、その後は行方が分からなくなっていて、1945年8月の水戸の空襲で焼失したのではないかと考えていました。

 ところが先月下旬、私はまったく信じられないような1通のメールを受け取りました。差出人は東京にお住まいの方で、清一の『初秋の丘』を所蔵しているというものでした。古いお住まいを改築した際に、昔からこの方のお宅に飾られていた絵の裏に「初秋の丘 東京 鈴木清一」(写真2) と書かれているのに気付き、インターネットで調べてみたところ、「今月の一枚」(2003年7月号) に掲載されている『初秋の丘』のモノクロ写真を見つけ、原画が行方不明になっていることを知って、取り急ぎ連絡を下さったというのがことの顛末でした。

 私はさっそく上京し、初めて見る原画の前で無言のまま立ちすくんでしまいました。本当に夢のような感激の対面でした。そして、激動の時代をくぐり抜けてきた作品の無事を喜ぶとともに、清一の記念碑的作品を大切にしてこられたご家族に深く感謝したのでした。お話を伺うと、この方の祖母に当たるご婦人が所蔵していたもので、ご婦人は当時、清一がアトリエを構えていた代々木に住んでおられたことが分かっています。
 作品はF80号のカンヴァスに描かれており、表面は埃や脂が付着してかなり汚れてはいますが、絵具の亀裂や剥離などは全くなく、私が想像していたよりははるかに保存状態が良好だったことも嬉しい限りでした。展覧会図録のモノクロ写真では分かりませんでしたが、印象派風の明るい色彩の風景画で、近景には色づき始めた樹木が、中景には収穫の終わった田畑が、また遠景の小高い丘の上にはオレンジ色の屋根をした瀟洒な建物が描かれています。関東大震災前の本格的な住宅開発が始まる以前の代々木近辺の風景なのでしょうが、確かな場所は分かりません。近々、東京渋谷区の郷土史研究家に鑑定を依頼しようと考えています。

 ところで、私が清一の足跡を辿り始めてから10余年が経ちました。この間にはさまざまな出会いや発見がありましたが、このたびの『初秋の丘』との対面ほど劇的な出来事は未だかつてありませんでした。「事実は小説よりも奇なり」と言いますが、本当に奇跡が起こったとしか考えられません。未だに信じられないような気分なのです。改めてインターネットの凄さを再認識しました。この調子では、行方不明になっている清一の他の作品も、これから発見されるかもしれないと感じています。
 最後に、このたび『初秋の丘』の所在をお知らせ下さった方は、私に作品を返還したいと仰っています。本当にありがたいことです。私はこの作品がより多くの美術愛好家の目に触れるように、どこか相応しい美術館が1日も早く作品を受け入れてくれることを願っています。


木枠に「初秋の丘 東京 鈴木清一」と記されていたことが
このたびの「奇跡的発見」につながったのでした。


 

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