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2008年 4月号


 明石市にお住まいの方から、清一の作品を持っているという連絡のメールをいただきました。この方のお父様が大切になさっていた風景画の隅に記された「清一」の文字を手掛かりに、ネット検索をした結果、本サイト『画家・鈴木清一の世界』にたどり着き、さらに、この絵をお父様が「帝展無鑑査の有名な先生に描いていただいた」と自慢げに持ち帰った数10年前のことを思い出したというお話でした。


鈴木清一作『舞子風景』(1960年ごろ ?)
油彩・板、37.9x45.5cm、個人蔵 (明石市)




 この方のお父様は数年前に亡くなられているのですが、曾て三菱重工神戸造船所に勤めておられたとのことなので、もしや木曜会 (2004年4月号『鬼塚貫一氏像』を参照)  の会員だったのではないかと思いましたが、そうではなかったようです。おそらく木曜会の会員の紹介でこの作品を入手なさったのでしょう。
 さて、絵の具が少し剥離しかかったこの絵を修復したいと考えた息子さんは、神戸のある画廊の主人に相談したところ、「鈴木清一という名前は美術年鑑に掲載されていないので、修復するほどの価値があるものかどうか分からない」と言われ、わたしに相談を持ちかけてこられたのでした。そこで、わたしが日頃お世話になっている修復工房をご紹介したところ、さっそく修復を依頼され、この機会に額縁も新調したいという息子さんのお付き合いをして、わたしは神戸の画材店でこの絵を見せてもらいました。舞子の高台から海を描いた8号の明るい油彩画でした。

 清一は舞子の風景がよほど気に入っていたとみえて、『舞子の松』(2002年6月号) 『舞子風景』(2004年5月号) などの作品を残していますが、この作品には明石海峡を眼下に一望した風景が描かれています。白波が立つ青い海を小型船が行き交い、その向こうには淡路島が美しい姿で横たわっています。左手前にひと際高く幹を伸ばした松の木が画面に強いインパクトを与えているのが印象的です。
 つい先日、わたしは清一の『舞子風景』の写真と小型カメラを携えて舞子へ出かけました。運が良ければ、この絵の風景がまだ残っているのを見つけられるかも知れません。JR山陽本線の舞子駅を出て公園の松林の中を東へ進むと、小高い丘の上に建つ白亜の高層建築物・舞子ビラが目の前に現れます。まずはここへ寄ってみることにします。清一がここで描いたと決めつけたのではなく、およその見当ぐらいはつきそうだと考えたのです。


 ▲シーサイドホテル舞子ビラ神戸 (神戸市垂水区東舞子町) の本館14階から
明石海峡を望む (2008年3月撮影)

 舞子ビラ本館の最上階(14階)にあるレストランからの眺望は見事です。明石海峡、淡路島、明石海峡大橋が眼下に広がっています。しかし、残念ながら期待していた光景とは違っていました。淡路島と陽光に輝く海峡の潮は『舞子早春』に描かれている通りですが、手前の景色がまるで違っているのです。アジュール舞子という人工的な海水浴場とホテルなどの商業施設が海辺を圧しているのです。

 清一のこの作品は今からおよそ50年前の1960年ごろのものと思われますが、当時はまだ舞子ビラの建物は高層化されていなかったので、彼がこの絵を描いた場所はもっと北に寄った高台だった可能性があります。こう考えたわたしは、舞子ビラから北西に向ってゆるい坂道を上り始めました。歩きながら何度も振り返っては海の方を見るのですが、住宅がびっしり立ち並んでいるので、まったく海が見えません。こうして、垂水区歌敷山1丁目から4丁目の住宅地の中を2時間近くも歩き回った末に、わたしはすっかり疲れ果て、ついに諦めざるを得なくなりました。何しろ半世紀も前のことですから無理もありません。当時、この付近は未だ人家もまばらだったのでしょう。

 

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