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2008年 5月号


 2001年10月に神戸で開いた「郷土の洋画家・鈴木清一回顧展」が契機となって、清一から絵画の指導を受けたことがある方々や、清一の作品を所蔵している方々が見つかったことは大きな収穫でした。展覧会の会場でH氏にお目に掛かれたこともその一つでした。展覧会終了後、明石市のお住まいにお邪魔をして、13点もの清一の作品を見せて頂いたのです。

 このH氏の息子さんから、昨年12月に一通のメールを頂きました。お亡くなりになったお父様が大切にしていた清一の作品を返還したいという、大変ありがたいお申し出でした。わたしはさっそくお宅へ伺い、H氏のご遺族のご好意に甘えて作品を頂いて帰りました。その中に清一が得意とした松の小品がありました(写真1)。

武庫川堤

写真1. 鈴木清一作「武庫川堤」(1965年)
油彩・板、33.3x24.2cm、筆者蔵




  額縁の裏板を外すと、清一の筆跡で「武庫川堤 昭和40年8月 鈴木清一作」と記されています。武庫川堤の文字を見てわたしはピンときました。清一は武庫川にほど近い西宮市上之町の借家に住んでいたことがあるからです。彼の妻・八千代が左上顎がんの切除手術を決意し、入院前後の1年間、わたしと妻が清一夫婦と一緒に暮らすことになったのでした。昭和40年というのもこの同居生活の時期と一致しています。

 兵庫県篠山市に水源を持つ武庫川は、三田盆地から武庫川渓谷を経て宝塚市で大阪平野に入り、大阪湾へ注いでいます。尼崎市と西宮市の間を流れる下流域では、見事に枝を張った黒松が堤防と河川敷に群生しています。
 清一が越してきた上之町から武庫川右岸の堤防までは徒歩数分の距離です。当時、落ち着かない毎日を送っていた彼にとって、この付近は格好の散歩道だったに違いありません。松を描くのにも絶好の場所だったのでしょう。

 先日、わたしは散歩を兼ねて妻と一緒にこの付近を歩いてみました。当時はまだ人家も疎らでしたが、今ではすっかり人家が建て込んで、曾てわたしたちが住んでいた場所がどの辺だったのか、見当すらつきません。周囲をきょろきょろ見ながら歩き回っているうちに、清一がこの絵を描いたのはこの辺ではないかという場所を見つけました(写真2)。上之町の北隣の樋ノ口町にある東公園のすぐ東側に堤防へ上がる坂道があり、堤防の上には松が数本並んでいます。清一の絵にはもっと多くの松が描かれていますが、45年もの間には枯れた松もあったでしょう。事実、切り株も見つかりました。確信はありませんが、当たらずと言えども遠からずと言えるのではないしょうか。

西宮市樋ノ口町2丁目

 ▲写真2.
西宮市樋ノ口町2丁目東公園から武庫川堤防を望む

 

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