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2008年 11月号


静物画の中で清一がもっとも頻繁に描いたのが紅椿でした。現在までに所在が判明しているものだけでも60点以上はあるのですが、その中でも金色のバックのこの作品は際立っています。一般に静物画のバックには、彩度を低くした落ち着いた色を使うことが多いようですが、この作品では燦然と輝く明るい金色のバックを描くことによって、あたかも紅椿から後光が差しているような、華やいだ雰囲気が醸し出されています。

この作品は清一の最晩年にあたる、おそらく1978年ごろに制作されたものと思われます。数年前に妻に先立たれていた彼は、当時、神戸六甲の借家に独り住まいをしながら、寸暇を惜しんで制作に没頭していました。すでに80歳を過ぎていた清一のことが気がかりだったわたしは、勤務先の大阪から須磨の自宅への帰路、六甲で電車を途中下車をして彼の様子を覗きに立ち寄ることがよくありました。そんなある日、わたしは清一に頼まれた金粉を大阪心斎橋の画材店で買って届けたことがありました。あのころの清一は、いろいろな新しい試みをしていたようで、油彩画に金粉を使うというのもその一つだったようです。彼の遺作となった『舞子の松』(2002年6月号)に金粉でハイライトを描いたということは、清一から直接聞いたことがあったのですが、紅椿の絵のバックにこのときの金粉が使われていたことに気がついたのは、ずっと後になってからのことでした。


▲ 写真1. 鈴木清一作「紅椿」(1978年ごろ)
油彩・板、38.0x45.5cm、個人蔵(神戸市)

なお、ここに描かれている花瓶は清一のお気に入りだったもので、彼の作品にしばしば登場します。わたしは物心がついたころから、この花瓶が彼のアトリエにあったのを覚えていますし、今でもまだわたしの手元に残っています。おそらく戦前に、清一がどこかの古道具屋で見つけてきたものなのでしょう。花瓶には銘が入っていないので素性は分かりませんが、中央部が括れた六角形の形が面白いのと、藍色が彼の気に入ったのでしょう。


写真2. 清一お気に入りの六角形の花瓶

 

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