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2009年1月号 
第9巻 第1号 (通巻第89号)


あけましておめでとうございます。2001年10月に神戸で開催した「郷土の洋画家・鈴木清一回顧展」に先立って、同年9月に創刊した『今月の一枚』は、このたび8回目のお正月を迎えました。ここまで続けることができたのも、みなさま方から暖かいご支援をいただいたからに他なりません。改めて厚くお礼申し上げます。

さて、今年は丑年、わたしは6回目の年男になりました。今後とも牛のようにゆっくりと、この『今月の一枚』を続けていきたいと考えています。継続は力なりです 。そこで、2009年1月号は「緑の中の牛」(図1) を取り上げることにいたしました。なお、この画題はわたしが勝手に付けたもので、清一が付けたものではありません。

緑の中の牛

▲図1. 鈴木清一作「緑の中の牛」(1940年?), 油彩・カンヴァス, 23.7x32.9cm, 筆者蔵
 

頭部と体の一部が黒いホルスタイン牛がゆったりと佇んでいます。草をゆっくりと反芻しているようです。やや青みがかった緑色のバックが、白と黒を基調にした大きな牛の体を柔らかく包み込んで、画面全体に静かで落ち着いた雰囲気を醸し出しています。

この作品はカンヴァスに描かれているのですが、木枠が付いていません。1954年に須磨区月見山町の借家から同区関守町の借間への転居を余儀なくされた際に、清一が木枠からカンヴァスをナイフで切り取ったものと考えられます。大きさがF6規格のカンヴァスよりも少し小さくなっています。

清一の遺品の中から、牛や牛舎を描いたスケッチが何枚も見つかっています(図3〜図6)。その中の1枚には昭和15(1940)年と書かれています(図3)。これらのスケッチは同じスケッチブックに入っていることから、いずれも同じ時期、つまり1940年に描かれたものと考えられます。1940年は「紀元二千六百年奉祝展」が開かれた年で、ここへ清一は「雲と牛」(図2) (2002年1月号)を出品するために、酪農牧場に出向いて牛を観察したのでしょう。

雲と牛

▲図2. 鈴木清一作「雲と牛」(1940年)
油彩・カンヴァス, 兵庫県立美術館蔵

 


図3. 鈴木清一作「牛のスケッチ」(1940年)
鉛筆・紙, 25.4x34.6cm, 筆者蔵


図4. 鈴木清一作「牛のスケッチ」(1940年)
鉛筆・紙, 25.4x34.6cm, 筆者蔵


図6. 鈴木清一作「牧場のスケッチ」(1940年)
鉛筆・紙, 25.4x34.6cm, 筆者蔵


図5. 鈴木清一作「牛のスケッチ」(1940年)
鉛筆・紙, 25.4x34.6cm, 筆者蔵

ところで「緑の中の牛」(図1) と「雲と牛」(図2) とを見較べると、体毛の色と尻尾の位置が違っていますが、牛の姿はほとんど同じように描かれています。もちろん背景もまったく違います。しかしわたしは、清一が「雲と牛」を描く前に「緑の中の牛」を習作として描いたのではないかと思うのです。奉祝展に出品する作品は、明るい未来に向って力強く進む日本の姿を象徴するようなものでなければならないと考えた彼は、柔和な感じの習作「緑の中の牛」を捨てて、茜雲をバックにした堂々たる黒牛を描いたのではないだろうかと考えるのです。1940年というのは、国家総動員体制の中で大政翼賛会が発足し、紀元二千六百年祝賀行事に全国が沸き上がった年だったからです。

話は少しそれますが、わたしがまだ子供のころ、須磨・月見山の天井川沿いに酪農牧場がありました。たしか松田牧場とかいう名前でした。中まで入ったことはありませんでしたが、何頭かのホルスタイン牛がいるのが道路から見えました。広い敷地ではなかったので、牛の数は多くなかったと思います。戦後の復興が始まり、いつの間にかこの牧場はなくなりましたが、清一はこの酪農牧場で牛の観察をしたのでした(図6)。瓦葺きの牛舎や人家のように見える屋根越しに、六甲連山の一部が描かれています。人家が密集する現在の月見山からは、想像もできない70年前の風景です。

 

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