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2010 年3月号 
第10巻 第3号 (通巻第103号)

花瓶と蜜柑 (1975年頃)



鈴木清一作『壺と蜜柑』 

▲鈴木清一作「花壷と蜜柑」 (1975年頃)
油彩・カンヴァス、37.9x45.5cm、筆者蔵


今月ご紹介する「花瓶と蜜柑」は、清一の静物画の中でわたしが最も好きな作品の一つです。3個の空の花瓶に蜜柑を添えただけの実に単純なモチーフですが、 清一の力強い筆遣いによって非常に深みのある重厚な作品に仕上がっています。白と青磁と茶色の花瓶と黄色い蜜柑とが、灰色を基調とした落ち着いたバックの 色に見事にマッチしています。さらに、やや厚く塗られた絵の具のマチエールによって、焼物の持つ立体感と表面の肌合いとが効果的に表現されているので、思 わず触れてみたいような気分になるのです。

1974 年に妻に先立たれた清一は、最晩年を六甲・篠原本町の借家で独り暮らしを続けながら、寸暇を惜しんで絵筆を揮っていました。当時、すでに80歳を超えてい た父・清一の安否を気遣って、わたしは休日に妻と子供たちを伴って彼の許を訪ねたり、通勤の帰路に立ち寄ったりしていました。そんなある日、彼は2階のア トリエに並べた何点かの作品を見渡して、この中からどれでも好きなものを1枚持って帰るようにわたしに勧めました。当時、須磨に新居を持ったわが家へのお 祝いでした。そのとき、わたしが躊躇なく選んだのがこの「花瓶と蜜柑」でした。あれから30数年が過ぎ去った今でも、わが家の居間に架かったこの絵を眺め ると、些か感傷的な気分になるのです。

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