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2010年7月号
第10巻 第7号 (通巻第107号)

からたちの花



鈴木清一作:からたちの花

▲鈴木清一作「からたちの花」(1967年)
水彩・はがき、14.8x10.0cm、個人蔵(京都府)


先月号に続いて、入院中の親友に清一が送った絵手紙をご紹介します。彼はからたちの花の絵に添えて、次のように書いています。

白秋の詩、山田耕筰の作曲で「からたちの花」を知らぬ人はないでしょう。然し、からたちの花がいつ咲くのか、どんな花か、知る人は少い。調べてみようと思う人も少ない。知識と現実とが結びつかない。先年ある歌人と春の山を歩き、歌によみながら実物を知らないと白状していた人があったよ。今日散歩に出て写生した。

自然派の清一は、都会に住む人々が自然から遠ざかっていくのをいつも嘆いていました。彼が残した手記の中にこんな文章があります。

自然から遠ざかる

わたしが毎週1回教えて居るあるドレスメーカー学院の生徒(高卒)だちに、枇杷の花はいつ咲くかときいたら一人も知らなかった。くちなしの花はと聞いても知らない。山茶花、ぼけ、つばき、茶、さるすべりときいてみたが、極く少数より答へられなかった。

都会の若い女性はみんなそうだと言ってしまふのは早計であらうが、花の咲く時期を知らない女性は多いらしい。男性も尚同じことらしい。それだけに花に関心をもたないわけでもなからうが、大体わたし共の周囲にある植物に関心をもっていないといふ方が本当かも知れない。

わたしの知人に歌人がある。戦争中だったが一緒に晩春の須磨の裏山へ行ったことがある。食料になる植物採集のためであった。ところがその友人はすみれとわらび、あざみ以外はほとんど草木の名を知らない。せり、たら、山うど、ぜんまい、よもぎ、いたどり、やまごぼうなどの食料になる草木は勿論、なら、くぬぎ、くす、はん、檜の類も知らないのにわたしも驚いたことがある。文章や歌、詩俳句などでこうした草木のことを読み、君自身も歌によんだことがあるでせうときいたら「その通りです」と笑っていた。

畑の人参を見て「これはパセリですか」ときいた女性はたしかに都会の女性だ。田舎の娘ならパセリを見て人参と云ふかも知れない。自然からだんだん遠ざかってゆく都会の生活を淋しく考えることがある。

ここで白秋の「からたちの花」を復習しておくことにしましょう。

からたちの花が咲いたよ 白い白い花が咲いたよ
からたちの刺は痛いよ 青い青い針の刺だよ
からたちは畑の垣根よ いつもいつも通る道だよ
からたちも秋は実るよ まろいまろい金の玉だよ
からたちの傍で泣いたよ みんなみんな優しかったよ
からたちの花が咲いたよ 白い白い花が咲いたよ

さて、清一にちょっぴり皮肉られたと感じたわたしは、あわてて調べてみました。すると「カラタチはミカン科の落葉樹で、樹高は2〜4m、枝には鋭い刺がある。春に葉が出る前に5弁の白い花が咲き、花の後に3〜4cmの丸い緑色の実をつけ、秋になると熟して黄色くなる」とありました。なるほど、正に白秋の詩の通りです。

 

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